2022年4月29日(金)、吉祥寺のイーストエリアにフォーカスしたかるた「吉祥寺かるた 行くぜ!イースト」がついに発売されました。
まちづくり事業を行っている武蔵野市開発公社、ご当地かるたプロデューサーの徳永健氏、そして街の方々が「吉祥寺イーストサイドかるた製作プロジェクト」に取り組み、イーストエリアが一丸となって作り上げた“ご当地かるた”です。
そんなご当地かるたの札の舞台となったスポット7箇所をピックアップ。イーストサイドかるたの仕掛け人である武蔵野市開発公社の西山氏とまわり、かるたを作る中でわかった裏話やまちづくり視点での札と街の見方を伺ってきました。
イーストエリアに住んでいる人も知らないような超マニアックな情報をお届けします。
かるた片手に歩いてみた
里の宿
吉祥寺で最も人気と言って過言ではない魚定食屋「里の宿」。井の頭通り沿い、東進ハイスクール先の小道を入ってすぐ。魚料理が絶品で、特に煮付けは一度食べたら忘れることはないでしょう。
そんな人気店の札は・・・【に】煮付けの香り たどればそこに 里の宿
ーー里の宿は駅からの立地を考えると、“好立地”と言えるわけではないからこそローカル感を醸し出してていいですよね。
西山氏(以下、敬称略):住宅地と商業地の境界部分では建物の規模や用途が大きく変わるため、その差が街並みを乱すという指摘が良く聞かれます。里の宿が立地する場所は、まさにそのような問題が心配されるような境界部です。しかし、お店の周辺を歩いてわかるように、煮つけの香りが周囲の街を包んでいます。
ーー煮付けの香りが境界部の良い役目を果たしていると?
西山:はい。商業地から歩けば住宅街のような落ち着いきを感じる香りで、住宅地から歩けば穏やかだけども賑わいを感じる香りです。ラーメンなどの強烈な匂いではなく、煮つけの香りだからそう感じられるのだと思います。
ーーなるほど。まちづくりという視点でも里の宿は良い役目を果たしているのですね。
西山:まちづくりの現場では、建物の配置や形状などでこれらの問題を解決しようとする取り組みが主流ですが、(に)の札は香りのデザインが解決策の一つになるかもしれないことを教えてくれます。視覚のみでなく、五感でまちをデザインすることの重要性がわかりますね。
ーーディズニーランドのエリアとエリアの境にある滝の音と同じ考えですね。
二丁目SOZAI
末広通りにある人気お弁当・惣菜店「二丁目SOZAI」。名物のおじさんと店内にたくさん飾られた振り子時計が目印。
札は・・・【と】とけいや いやいや そうざいや
ーーお店におにぎり買いに来るとき、いつも振り子時計がたくさん飾られている理由が気になってました。
西山: 「電池交換をお願いします」「うちは総菜屋だよ」というやり取りがお決まりの二丁目SOZAI。店内に飾られている数多くの時計は、商店街の閉店する店の時計を引き取ったのが初めの一つだそうです。徐々に街の時計がこの店に集まってきて、お店の内観が出来上がったということです。
ーーへぇへぇ!!ご主人の趣味だけが理由ではなかったのですね。今や末広通りのシンボル的存在なお店ですもんね。
西山: 時計が飾られた内壁は末広通りから良く見え、一つの景観を作り出しているように思います。それは単に時計がいっぱい飾られている景観ではなく、地域の思い出を引き継いだ景観です。「景観」というと建物形状・大きさ・色、外構としての植栽などの視点で語られることが多いです。もちろんそれらは大事です。
ーーただそれだけではなく、人のつながりが景観を作り上げていると。
西山: ダジャレで作られた【と】の札も、二丁目SOZAIの時計にまつわるエピソードを知ると、物理的な「景観」ではなく、その地域の歴史や人のつながりによってつくり出される「景観」の大事さを改めて認識させてくれます。
ちなみに店主は「くまさん」と呼ばれています。
昇華山 阿羅耶識院
失礼ながら、得体のしれないスポットもあるのがイーストエリア。独特な雰囲気を醸し出す「昇華山 阿羅耶識院」は何屋さん?と疑問に思った人も少なくないはず。お寺です。
札は・・・【ろ】路面寺? 五色幕くぐって パワースポット
ーーお寺だったんですね!!2階もあり、街の中に溶け込んだ珍しいお寺ですね。
西山:最近のまちづくりでは「1階づくり」が大事だと言われます。しかし、具体的なメニューとして認識されているものは、意外と少ないんです。例えば、「純粋に街に賑わいを作るお店の誘致」「地域の人の居場所づくり」「道路に開かれた1階のデザイン」といったものです。
ーー吉祥寺の街を歩いていてもまず目につくのは1階ですもんね。
西山:はい、このなんとも独特な雰囲気を放っている阿羅耶識院を見てください。吉祥寺のイーストサイドらしいと思いませんか(笑)個性豊かなお店だけでなく、お寺(しかもビル)が街並みを作っています。かるたづくりを通じて、この地域は多様性と寛容性があるなと思っていましたが、【ろ】の札は1階づくりにおいてその象徴のような存在です。
ーーウエストエリア(東急裏エリア)には絶対に無い独特な存在感(笑)
西山:この地域で生まれ育った人によると「子供だった30年ほど前には既にあって、ここが何なのかあまり知られていないけど、不思議と街になじんでいる場所」だそうです。
ーー3階にある本堂は誰でも参拝できるんですね。
西山:大型連休などは事前に確認した方が良いですが、基本的には日曜日と月曜日を除いて参拝できます。実は私も今回の取材で初めて入りましたが、良い意味で一階と全然違う雰囲気ですよね。いろいろと安心できます(笑)
ライオン薬局
高架下にある「ライオン薬局」は、駅の東口からすぐ。お酒が楽しめる店の多いエリアで、飲兵衛の肝臓を守る守護神です。
札は・・・【の】呑む人の 肝臓をまもる ライオン薬局
ーーライオン薬局には肝臓を守る有名な薬があるのですか?
西山:飲み会の多い地元商業者の肝臓を守っている錠剤「ミラグレーン」が、ここで買えます。アトレ東館口から外に出たところにあるライオン薬局でミラグレーンを購入し、近くの繁華街に向かうのが、この地域の“黄金ルート”。昨年11月のかるたづくりワークショップ(以下、WS)に参加してくれた地域の人も「年末に向けてボトルで買う」と言っていました。
ーーミラグレーン…このエリアでは必須アイテムなのですね。
西山:【の】の絵札の男性二人のように、私たちが次に向かうのは「中華街」です。
ーー肝臓の守り神「ミラグレーン」はこちらです▼
中華街
ライオン薬局から高架下を歩き、一本入ってすぐの「中華街」。店舗は1つですが中華街です。店構えや店内の様子と同様に、お料理も気取ったものではなく、かといって雑な調理ではない、美味しい仕上がり。
札は・・・【ね】眠らない ツワモノ集いし 中華街
ーー中華街…まったく変わらないこの気を張らずに入れる雰囲気が人気ですよね。
西山:今回のかるたづくりにおいて、おそらく最も札が集まったお店の一つがこの中華街です。採用されませんでしたが、明け方に呂律が回らず千鳥足となるまで呑み明かすツワモノを「ゾンビ」と表現した札もいくつかありました。例えば、「ゾンビの巣窟 中華街」。地域に愛されているお店なのだと感じました。
ーーリアル「ウォーキング・デッド」が吉祥寺の中華街で見れるのですねww(ライオン薬局の守護神に守ってもらわないと)
西山:まちづくりを仕事としている私が注目したのは、中華街は商業地のど真ん中ということです。住宅がすぐ近くにあったら、朝までの営業はなかなかできません。中華街のようなお店を守るためには、もちろんお客として通うこともそうですが、商業地としての環境を街として維持することも重要なのだろうと思いました。
ーーマクロな視点でも見ないと住宅街との共存が難しいわけですね。ところでお店の人気メニューは餃子と海老マヨだとか?
西山:はい、そのようです。そして中華街の洪(こう)社長いわく、多くの人は餃子の食べ方を間違えているとのこと。中華街で勧めている食べ方は、餃子が運ばれてきたらすぐには食べず、「3分待って一口で食べる」というものです。熱々の状態では、1つの餃子を何回かに分けて食べたり、ハフハフして食べるので、餃子の本来のおいしさを味わえないのだとか。
ーーゾンビの皆さん、餃子は3分待ってね。覚えておきましょう。
みその通りの壁画
みその通りという細い小路を通ったことがありますか?建物の外壁に絵が描かれているんです。プロジェクトの中では、誰が描いたのかは判明しなかったとのこと。
札は・・・【み】みその通りの むこうはイタリア?
ーーイーストエリアには外壁に絵が描かれている建物がけっこうありますよね。
西山:吉祥寺のイーストサイドを歩くと、建物の外壁に描かれた絵や文字などが目立ちます。WSの参加者からは「歓楽街として栄えると共に治安が悪化し、外壁やシャッターに落書きが増えた。消しても消してもすぐに落書きされる始末。その対策として壁画が描かれた歴史がある。」と教えてもらいました。
ーーそういう経緯だったのですね。さすがイースト。夜の街なイメージが強いからこその事情ですね。
西山:私自身は【み】の札になった壁画がどのような経緯で描かれたのかは知りませんが、最近の施設やお店の外観デザインでも、意図的に絵や文字を使っているのもが多いように思います。地域の歴史と取り組みが、景観をつくるものなのだと改めて教えてもらいました。
吉祥なおきち
吉祥寺シアター内にあるカフェ「吉祥なおきち」では、”おそらく吉祥寺いちばん美味しい”と自負するソフトクリームを提供しています。
札は・・・【そ】ソフトのツノで形占い
西山:スポット巡り最後は、吉祥寺シアターの1階にある「吉祥なおきち」です。日々の営業で忙しいにもかかわらず、3人体制でWSに参加してくれました。そのうちの1人がアイディアマンで、500以上あった読み札から46しか選ばれないにも関わらず、その人が考えた札から6つも採用されました。
ーーえ、すごい!!かるた貢献度が最も高いのはなおきちだったのですね。
西山:現在、なおきちの店内でその人が考えて採用された札と原案、そして惜しくも選外となった作品3点が展示されています。
ーーなおきちのソフトクリーム食べたことありますが、さっぱりしてて美味しいですよね〜。
西山:【そ】の札になったなおきちのソフトクリームは、毎回形が違います。どんな形になるか、楽しみですね。
吉祥寺のイーストエリアに限定したコアなたかるた
以上、かるたのスポット一部を実際に歩いてまわりましたが、「吉祥寺かるた 行くぜ!イースト」は、 46枚の札からなる街の姿を映し出したユニークな「ガイドブック」として他の媒体では知ることのできない地域の魅力を伝えてくれていることがおわかりいただけたかと思います。
『ぺろきち商店』(perokichi.stores.jp)ほか、コピス吉祥寺1F ペニーレーンギャラリー内イベント、吉祥寺の書店などで購入可能です。ぜひお買い求めください!
知ってる?吉祥寺かるた イースト展
4月29日(金)〜5月19日(木)の期間、コピス吉祥寺A館1階ペニーレーンギャラリー内にて展示即売会を開催中。かるたの札やバンダナの現物を見てから買いたい方は、ぜひ足をお運びください。
※かるた&バンダナの販売は5月8日(日)まで
そして、かるたとコラボしたバンダナも販売中。「吉祥寺かるた 行くぜ!イースト」の札に描かれたショップをマップに落とし込んだバンダナです。
詳細はこちら▼