2024年10月、井の頭公園駅の改札を出てすぐ目の前。どこか懐かしさを湛える重厚な木製ドアと、淡い石壁に掲げられた一枚の看板「珈琲観々(こうひぃかん)」。
初めて来たはずなのに、不思議とタイムスリップしたような感覚に包まれ、思わず扉を開けたくなる瞬間。
珈琲の香りと静謐な時間を楽しむ喫茶店
看板のすぐ近くには、“珈琲だけの店”という文字とともに、いくつかの注意書きが柔らかな筆致で記されています。
一つめは「コーヒーはブラックのみ」。ミルクや砂糖は一切つかないので、「甘いラテが飲みたい」「カフェモカにしたい」という方には不向きかもしれない。二つめは「基本的に2名までの入店」。どうしても3名になってしまった場合は、空き状況によって許される場合もありますが、それ以上の人数は入れないそう。さらに、一時間までの利用や、勉強・PC作業が禁止であることなど、厳しそうに見えるルールが並ぶけど、それらは店内を“珈琲の香りと静謐な時間を楽しむ空間”として守るためのこだわりでもある。
店の奥深い歴史を物語るアンティークな空間
扉を開け、急な階段をのぼり中へ足を踏み入れると、アンティーク調のインテリアと低めの照明が静かに迎えてくれる。まるでヨーロッパの小さな骨董屋さんを訪れたかのような空気感で、木製の椅子やテーブル、昔ながらのレジスターといった調度品が、店の奥深い歴史を物語るように佇んでいます。
店内を見渡すと、白い壁にアンティーク調の照明、そして窓辺にはほんのりと外光が差し込む。まるで一軒家の洋館でお茶をしているかのように落ち着く。駅前とは思えないほど静かなのです。
実際、店主さんは大阪・天満で「星霜珈琲店」として16年以上営業されていたそうで、そのこだわりや魂が、この新天地・井の頭公園駅前へそのまま移ってきたのだと思うと胸が熱くなりますね。
実際、席に腰を下ろすと、ネルドリップの香ばしく濃厚な香りが鼻をくすぐり、早くも“ここに長居したい…”と誘惑される。
メニュー
メニューには注意書きのとおり、ほとんどがコーヒー。各豆のイメージが記載されています。
今回いただいたのは「ブレンド#1 武蔵野ブレンド」の秋冬バージョンと、お供には「ベイクド・チーズケーキ」をセレクト。
“人生そのもの”を感じさせる奥深いコクを引き出した一杯
さて、ゆったりとした時間に浸りつつ、待つこと10分ほど。提供いただいたのがこちら。
早速、一口含むと、冷たい風が吹く夕暮れ時を連想させるような、奥行きのある味わい。
メニュー表を見ると、「武蔵野の雑木林の四季をイメージしている」と記載があり、なるほど、すこし苦味と酸味のハーモニーが深まった印象。トロリとした口当たりのあとに、じんわりと広がるほろ苦さ。そしてその隙間から甘みが顔を出す。
アナログな手廻し式の焙煎機で少しずつ丁寧に煎っているため、雑味を極力削ぎ落としながらも“人生そのもの”を感じさせるような奥深いコクを引き出すのだとか。どこまでも複雑で、だけど優しい。飲むほどに不思議な余韻が広がる。
ほっそりとしたロングサイズの「ベイクド・チーズケーキ」は、見た目こそシンプルだけど、一口頬張るとクリーミーなチーズのコクとほんのりした酸味が交錯する。
しっとりと焼き上げられていて、甘さは控えめ。ブラックコーヒーとの相性をこれ以上ないほど計算しつくしたかのようで、コーヒーの苦みがケーキの甘酸っぱさをいっそう引き立てる。“コーヒーだけの店”とは言いつつも、こうしたケーキの存在は嬉しいサプライズ。
「珈琲観々(こうひぃかん)」が掲げるスタイルは、シンプルかつ頑固にも映るかもしれない。でも、そこには“甘く、ほろ苦く、複雑で、濃厚…人生そのもの”というコーヒーを突き詰める姿勢がある。そしてこの空気感は、おいしいコーヒーを求めてやってくる常連客の心をがっちりつかんで離さないでしょう。
現金のみの会計や、人数制限、一時間までの利用など、一瞬ハードルが高く感じるかもしれないが、それを乗り越えてでも飲みたいと思わせる魅力が、ここにはある。
店舗概要
店名 | 珈琲観々(こうひぃかん) |
営業時間 | 12:00~19:00 |
定休日 | 木曜日 |
TEL | ー |
住所 | 東京都三鷹市井の頭3-31-1 2F |
地図 | |
@hakutou_3 | |
禁煙・喫煙 | 完全禁煙 |